高すぎるハードル

 前回までは、転職を繰り返した営業マン時代を経て、とあるきっかけでデザインを学ぶことになり、再就職した先ではデザイン業のみならず無料クーポンマガジンの撮影を担当することになったところまで書きました。

今回からは、私が本格的に写真にのめり込み始めるきっかけとなった結婚写真との出会い編になります。

私の人生は、この結婚写真を通して大きく、大きく変わることになります。


 

 無料クーポンマガジンの撮影にも慣れた頃、またも雇用主から予想だにしない試練を与えれたのでした。


「結婚式の集合写真撮影を覚えて欲しい」


その撮影の重要性は、結婚式になんの興味もなかった当時の私でも認識していました。

当時、担当していた無料クーポンマガジンの撮影は、仮に失敗したとしても、後日に別のカメラマンが再撮影という形でどうにか取り返しはつきますが、結婚式の集合写真なんて万が一失敗してしまったら完全に取り返しがつきません。


私は雇用主に対して全力で

「絶対ムリ!」


と、即答で断るつもりでしたが、当時の私にそんな勇気がある訳もなく、ザ・YESマンらしく、笑顔で「やります!」と返事してしまいました。


もう、こうなったらやるしかない!と心を決めて先輩カメラマンに「集合写真教えてください!」と言うと、そこでもまた衝撃的事実を知らされるのです。


「撮影はデジタルカメラじゃなくてフィルムカメラだから」


おいっ!マジでふざけんなっ!!できるわけないだろ!!!

と、怒りすら込み上げてきましたがもうあとの祭り。


当時、結婚式の撮影ではフィルムカメラとデジタルカメラが混在している時期であり、私が所属する会社では集合写真のみフィルムカメラで撮影することになっていたのです。

しかも、お父さんやおじいちゃんが趣味で持つような35mm判サイズのカメラよりも画面が5倍以上も大きい中判カメラ(通称:ブローニー)という見たことも聞いたこともないカメラを使用しての撮影だとか。


そんな重大なことを後出しで知らされ、もうこれ以上衝撃を受けることなんて流石にないだろうと高を括っていた自分の考えが甘かったと気づかれたのは、その数日後のことでした。


先輩からフィルムカメラの扱い方を教わるなかで、身の毛もよだつことをサラッと告げられたのです。


ここで少しフィルムとフィルムカメラについて説明しましょう。

フィルムには感光材というものが塗布されていて、光が当たると化学反応を起こします。

この化学反応が「像」となって記録されるのです。

フィルムをカメラにセットし、シャッターを押すことでレンズを通して入ってくる光がフィルムに当たり化学反応を起こし画像を記録することができます。

カメラの設定によってシャッターが長く開いて入れば、フィルムに光がたくさん当たるので結果的に明るい写真が撮れるし、短ければ光が少ししか当たらないので暗い写真が撮れるというものです。

分かりやすいのが、まぶたを閉じていて一瞬だけ目を開けた時に入る光が像として記録されるというものです。


カメラにフィルムをセットする時はフィルムに光が当たることはないので、セットさえしっかりできれば撮影はできるのですが、問題なのは撮影後です。

撮影後にカメラの中でフィルムを巻いて光を入れないようにする、いわゆる「巻き取り」という作業が必要なのですが、もし巻き取りをせずに蓋を開けてしまうと、カメラの外から光が入ってしまうことで、フィルムにその光が当たってしまい像が残っているはずの部分が真っ白になってしまうのです。

この失敗を「感光させてしまう」とも言います。


結婚式の集合写真で万が一にもこの失敗をしてしまったら、本当に取り返しのつかない事態になってしまうのです。

一度も現場に出たことがないのに、それを想像しただけで緊張して竦み上がってしまいます。

今後は、結婚式の撮影という重責を担う撮影を覚えなくてはならない上に、たった一つの手順を忘れただけで人生が吹っ飛ぶようなことになりかねないと、考えただけでその日はずっと気分が乗らず吐き気が止まりませんでした。


つづく


次回は、結婚式集合写真のアシスタント時代に触れていきます。


GRAPHYS Sugise





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